橋上(はしかみ)の野地のしょうぶだねの入口に、小さな土橋(どばし)がかかっておりました。昼間は仕事の行き帰りや用事の人達がこの橋を渡りました。
夜になると静かなもので、通る人もあまりおりませんでした。
いつのころだったのでしょうか、この土橋の下におかしなものが住んでいるという噂が広がりました。
そのおかしなものは、昼間はひっそりと静かにしておりますが、夜になるとせっせと働き始めるのです。
しかし不思議なことに、働く姿はいっこうにみせてくれないのです。
それでも土橋の下の水辺では、シャッ、シャッ、シャッと音がしはじめるのです。その音は、小豆(あずき)をとぐときの音とそっくりです。
ですから、村の人達は橋の下のへんなものに小豆とぎという名前をつけてやりました。
近所の人は夜になって閑(ひま)が出来ると、小豆とぎが達者かどうか時々心配しながらその音を聞きに行きました。
噂を聞いて、遠方からも聞きに来る人がありました。
小豆とぎは決して悪さをしませんでした。世間がだんだんとさわがしくなってきたので、多分、いや気がさしてきたのでしょう。いつの間にか小豆とぎは、どこかに逃げ出してしまいました。
静かな静かな山奥の土橋の下では、今でもシャッ、シャッと小豆をといでいるかもしれません。