宿毛市立宿毛歴史館

由良のはな

その1 片島から海路深浦(かいろふかうら)、船越(ふなこし)をすぎて、鼻面をまわると鵜来島(うぐるしま)、沖の島がすぐそこに横たわっているのが見えます。

やがて船は由良岬(ゆらのはな)にさしかかります。

今でこそ大型の動力船(どうりょくせん)で、それほどの苦労もせずに通りすぎることが出来るようになりましたが、それでも、漁船にとっては 油断(ゆだん)出来ない難所(なんしょ)の一つがこの附近(ふきん)です。

沖での漁のきりあげに手間取って、帰りのおそくなった船が一隻(いっそう)、岬(はな)から岬を目指して進んでいました。 潮の加減がくるって来たのか、いつもより流れもはやくなっているようです。



その2 悪いことに向い潮が船足をおさえて船子(ふなこ)達の急ぐ気持ちをおし止めました。

追い潮になれば、船足は早くなっても一度岩礁(がんしょう)にあたればそれまでです。船頭(せんどう)自ら舵をおさえて、 方向を見失わないように一生懸命でした。

それ程長い距離でもないが、今までにどれほどの船がこの附近で急流と岩礁のために難破(なんぱ)したか判らない(わからない) と言われています。

乗組員(のりくみいん)達の頭の中を、そのことがちらっとかすめました。
気のせいか風も出て来た様子です。



その3 そのうち船子の一人が何気なく舷(ふなばた)に目を向けました。

そこには、なんと夜目(よめ)にもくっきりと白い手が二本、四本、六本と、さしかけられているのです。
声も出せずに、がくがくふるえながら隣の仲間に手でおしえました。

そのうち、
「杓(しゃく)をくれ、杓をくれ」
という声がはらに沁み込む(しみこむ)様に低く冷たく伝わってきました。



その4 年寄りが、いつも積んでいた底をぬいた竹杓(たけじゃく)を数本、海になげこみました。

すうっと白い手は舷からはなれて行きました。

とたんに船足は軽くなり、気がつくとすぐ目の前に切り立った岩礁が迫り、あわやと言う所でそれをかわして走りぬけることが できました。



その5 たくさんの難破船(なんぱせん)の亡者(もうじゃ)達が由良を通る船をさそいこむために、こうして舷にとりつき、
「杓をくれ、杓をくれ」 とせがんでいたのです。

知らずに普通の杓を渡したら、どんどん水をくみこんで船をしずめてしまうのです。ですから、底のない杓を何本か 必ずつんでおかなければいけないと、この近の漁師(りょうし)達のあいだで話されたものでした。



その6 由良のはなの船ゆうれいも、難破する船がなくなって来ると、一緒にいつの間にか姿を消して行きました。



▲ページのトップへ

前のページに戻る