宿毛市立宿毛歴史館

豆太と柿の実

その1 夕焼け空と赤とんぼの秋も、いつのまにか落葉のかさこそ音をたてる季節にうつりかわって行きます。

どんぐりや、しいの実たちが落葉の布団の下にもぐり込み、寒い冬を越そうとしています。

鳥やけものたちは、せっかくもぐったはっぱの布団をかきのけて、木の実をひろって食べ歩きます。



その2 木の実がけものたちの体の中で姿を変えて、冬を迎える準備をさせてくれるのです。

狸の豆太はいろいろなご馳走のあるとこをよく知っていましたが、人間の作っているものにはなるだけ手を ださないようにしていました。

ときたまみかんなんかを失敬すると、ぶっそうな仕掛けで豆太をやっつけようとするからです。



その3 豆太の知っている谷間で、柿の実のたくさんなるところがありました。
谷には一軒だけ家があるのですが、主人は毎年その柿の実を全部取ってしまうことはしませんでした。

ある日、昼寝の夢からさめた豆太は腹がへってしようがないので、あたりも静かだし思い切って柿の木の谷に 行ってみることにしました。

登りやすい下枝に、たくさんの実がついていました。



その4 しぶ柿の実はまだ先の方がすこし甘くなっているだけでしたから、豆太は甘い所だけ四つ五つ食べました。

昼間から出歩くのはぶっそうだと思いながらやって来たので、かなり用心しながら食べていると、下の方で音がします。



その5 のぞいてみると一軒家の主人がじいっとこちらを見ているのです。
たしかに豆太に気づいていたようですが、黙って姿を消しました。

あくる日もまた思いきって出かけてみたが、どうしたことか坂道を豆太が歩いている所にばったり主人がやって来ました。

それでも主人はそ知らぬ顔でもと来た道を引き返して行きました。



その6 下の方の枝の実がたくさんあることや、追いかけようともしない主人を見て、これなら安心してご馳走になれると、 それからは毎日柿の木の谷に出かけるようになりました。

次から次と先の方をかじった柿は、順々にやわらかく甘くなって来ることを豆太は知っているのです。
一つの実を二度か三度に分けて食べると、しぶいまんまで食べなくてもよいのです。



その7 甘い実は小鳥たちも一緒に食べるので、しばらくするとなくなって来ますが、豆太の好物のさわがにもたくさんおるので、 いつのまにかこの谷でのんびり遊ぶようになりました。

主人が豆太たちのために、柿の実を残してくれることも判りました。



その8 こうした暮らしがあしがけ四年続いたある日のこと、野生のかなしさといいましょうか、犬に追われ木に登って難をさけたまではよかったが、 木の下で吠え続ける声をたよりにやって来た猟師の筒先に、あえなく命を絶たれたことを谷の主人はしばらくたって、風のたよりに知りました。

一山向こうの出来事でした。



その9 「もうそろそろ春になるのに…」

と、主人はぽつんとつぶやきました。



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