宿毛市立宿毛歴史館

舟ぞこを通る火の玉

その1 近頃海の様子もだいぶん昔とちごうて来て、こんな話も聞けんようになったが、二、三十年も前までは、釣好きの 間ではちょくちょく話の種になったもんだ。

以前は、宇須々木(うすすき)の宮の鼻や、池島(いけしま)の灯台下、大島(おおしま)の西づけのえぼし岩というような 手近な夜釣りの場所が、あちこちあって、晩飯を早めにすまひて出かける人がようおったもんじゃ。

えぼしの西側が溝になっちよて魚がよう通るけん、上手に舟をかけたらまちがいないというようなこともみんな知っちよった。 人それぞれに得手(えて)な釣場(つりば)を持っちょったが、なかには自分の得手な所は誰っちゃに教えんというもんも おったが、そこはそこでこっそりあとからつけていてその場所をさぐり出す。
そんなことも楽しみの一つじゃった。



その2 ある晩のこと、えぼしの端に舟をかけて大物がくりゃあええがと待ちよったが、大物どころか小物もこん。

いつのまにやら空一杯雲がでて、星も見えんようになってしもうちよる。

こべりから手をつっこんでみると、ふだんより水がぬくい。どうも潮の加減がくるうて来たんじゃろう。



その3 こんな調子じゃあ今晩はのぞみはない。
ぼつぼつきりあげていのうかと思いながら、ひょいとのぞいた海の中。どうひたことぞ、とぞけの丸さ程もある 大けな青い火の玉が、ゆらりゆらりと舟底(ふなぞこ)をくぐり抜け、青く光ったその玉は急ぐでもなく遠のいていく。

やれやれこげんなもんが出る様じゃあ魚もおちおち餌をくうわけにもいかんじゃろうと、早々に錨(いかり)を上げて 一生懸命、櫓(ろ)を漕(こ)ぎだした。
その櫓が水の中で8の字をかくとまわりがきらきら光るけんど、そのきらきらは一粒、一粒こんまい光じゃ。どげんなことで、 海の中をあんげな太い火の玉が通るがじゃろうか。



その4 通ったけん言うたち特別しがにもならんけんど、あんまり気持ちのええもんじゃあない。

夜光虫のかたまりじゃ言う人もおる。そう言われりゃあ、そうとも思えるけんど、どげんなことであれ程大きなかたまりに なるがじゃろうか。分れもせんずくに皆がよう、ついな方向に向いていくことよ。あんげに泳ぐもんじゃろか。

あれこれ思うておるうちに船着き場までもんちょった。



その5 そうそう大勢じゃあないけんど、青い火の玉に舟底をくぐられたと言う人はおる。
陸の火の玉もちかごろ姿を見せんようなが、海の火の玉もかくれてしもうたらしい。

そんなもんに一遍(いっぺん)でもおうてみたいちゅうような気で沖に出る人も、おそらく今じゃあおらんじゃろう。

ちいと味気がのうなった。そんな気がせんでもない。



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