宿毛市立宿毛歴史館

むじなの墓場

その1 寒い冬がやって来ました。
猟師たちは獲物を求めて山から山と歩きます。覚じいはむじな捕りの名人でした。ほんとうは「あなぐま」ですが、 「むじな」とか「のい」と呼ぶ人が多いようです。乾いた赤土の山肌をせっせと奥深く掘って、一家中何匹もが一緒に暮している ことが多いけものです。

覚じいの犬たちは、巣穴をかぎつけるとわんわんほえたて主人に知らせます。中には穴の中にもぐり込んだまま帰ってこない犬、 二週間近くも水一滴呑むことが出来ないだろう穴の中で頑張りとおして、自分の体のやせ細るのを待って出て来る犬。



その2 信じかねるようなことが犬にも起るのです。
むじなは怒るとなかなかきついので気性の弱い犬では太刀打ちできないことがあります。覚じいはそんなむじなを追う猟師だったのです。

ときたまみぞれまじりの小雨のばらつく日でしたが、その日は豊後水道(ぶんごすいどう)をのぞむ岬の突端まで足をのばしました。
集落の向こうの海辺近くに藪があり、岩場からにじみ出る真水が小さな沼をつくり、あたりはじめじめとした湿地に なっていました。
その日は私も覚じいに同行し、どこに行ったか判らなくなった犬を探しているうちにこの藪に入ってしまったのです。



その3 藪の中は人の立ち入った様子のなく、犬の足跡もみあたりません。

ふと水辺の草むらのそこここに白いもののあるのに気がつきました。近づいてよく見るとそれはなんと、むじなや狸の がいこつです。

二体、三体、五体、なんだか体中がぞくぞくして来るのです。偶然ここで死んだものとはどうしても思われません。
とすればここは彼らの墓場なのではなかろうか。あたりをよく見た上で引き返した私に覚じいが言いました。
「見つろう。」
「見たぜ。」



その4 覚じいも初めて見たときはずいぶんおどろいたが、このあたりには適当な水場もなし、病気になったりけがをしたものが水を 求めてここに来て、最後の一口、喉をうるおしてその一生をとじる場所。
間違いなく彼らの墓場だと思ったそうです。

山も海もずいぶんまわってみましたが、こんな場所に行き当たったことは初めてでした。なんともいん気な藪でしたが、 彼らの安住の場としていつまでもそっとこのままおいてやることが出来たらと思いながら、岬をあとにしたことでした。

そんなことがあったからでもないでしょうが、その日はむじなの顔を見ることもなく引き上げてきたのです。



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