宿毛市史【近世編‐町人と職人-商業】

商業

宿毛の商業といってもそれを解明する資料は何もない。しかし町家がある以上は商業が営まれていたことには間違いない。しかし商業は許可制であるので誰でもがやれるわけでもなく、また当時の流通から考えても必需品以外の商売はなかったのではなかろうか。士農工商が示すように最下級の職業とした藩政時代には農民に商品経済の滲透することによって、富が商業に吸収されることを防ぐために最下位に商業をおいたのであった。『兼松文書』の庄屋差出扣には「商札願、但顕然病身片輪者等にて其身願出ならびに親類、隣家始末相添へ願候こと」とあって労働のできない者にかぎって商売を許可されている。商売をしている者は庄屋以下村役人にはなれなかった。
その上に物価統制と販売商品の制限が実施されたのである。時代によって多少の相違はあると思うが『憲章簿』は次のように販売してよいものを記している。

郷中売物免許の品

1. 農具品々 1. 1. 柄鎌 1. つけ木 1. いわし 1. 塩から
1. 1. ておの 1. 1. 1. 1. 小刀
1. ほうてう 1. 三ッこき
ニツこき
1. 平折敷 1. はさみ 1. かみそり 1. けぬき
1. めんつ 1. 木杓子 1. 貝杓子 1. きせる 1. くし 1. はり
1. 茶碗 1. とをし 1. すいのふ 1. 髪油 1. 1.
1. 1. ゆりい 1. 火打 1. 1. 木綿帯 1. 檜笠

  右の分郷中売買せしむべく此の外は堅く停止せしむるなり
                          元禄5申年2月
                                   真遣十郎右衛門
                                   井上太郎右衛門
                                   大 庭  金 太 夫
二、売物免許53品、93品ならぴに取扱のこと、
    1  郷中商人の儀兼て仰せつけられ置き候御免許の品まで売買仕り御免許の外相背くにおいては屹度申つくべきこと。
    2  商いに参る時は手札持ち参るべし。もし疑わしき商人があったときは、仲間ども相互に吟味せしむべし。
    3  商い方の儀は手札一様にて数々の商いに出候義は勿論、右手札を人に譲り渡すことは相成らざること。子供が病身で農業が出来ない場合は親の手札を上げおき、病身者は新に願出るぺく相続は相成らざること。
    4  右商人の外後世に基候節は早速庄屋より届出直ちに札差戻すべきこと。
右はかねがね相守りみだりの儀これなきよう心得べきものなり。
    5  農具は丈夫に用意せしめその他のものは日々所用の器物の外無用の諸道具は一切停止、免許の品は左に記す通りのこと。

1. 農具品々 1. 1. 柄鎌 1. 付木 1. 1. 塩辛
1. 1. 1. 1. 1. 1. 小刀
1. 鉋丁 1. ニツゴキ
三ツゴキ
1. 平折敷 1. ハサミ 1. 髪剃 1. 毛抜
1. メンツ 1. 木杓子 1. 貝杓子 1. キセル 1. 1.
1. 茶碗 1. トヲシ 1. スイノヲ 1. 1. 1.
1. ユリイ 1. 1. 火打 1. 髪油 1. 檜笠 1. 木綿帯

   右の分は郷にて売買せしむべく以外は堅く停止せしむ
    享保4亥年2月

1. 鍋類 1. はたおり道具 1. 桶類 1. 茅莚 1. 茶セン 1. 紙帳
1. 白半 1. 庭莚 1. 鉄ノコキハシ 1. 渋紙 1. 1. 紙ふ

   右は同19寅年
1. 菅笠 1. 扇子 1. 白粉 1. 紅粉 1. 上方風呂敷手拭但大小共

        右は延享3午年
     〆53品
   居商定
1. 1. 醤油 1. 1. 豆腐
1. 味噌 1. 鶏卵 1. 麩類 1. 芋類
1. 干大根 1. 酒粕 1. ソパコ 1. 草履、草鞋
1. ドウラン 1. ヒシャク 1. 麦菓子 1. 切コンプ
1. 火ロ 1. 火繩 1. ソヲケ 1. 市皮
1. セン香 1. 灯油 1. 本結 1. ワラピノコ
1. 葛粉 1. シュロ毛 1. シュロ繩 1. 雑魚類
1. わら繩 1. 紙煙草入 1. 本綿クデ 1. 木綿羽織紐
1. 芦笠 1. 壱文判 1. 1. 薬類、丸薬・風薬類
1. 明松 1. 穀物小売 1. アラメ  

     〆40品
ここで居商というのは店で売るのであり、前記の品は郷中行商をする商品である。右のように商品を規制されただけでなく商業心得として次のような布達がある。
「商人は上下遠近諸物の有無を通じ候ためにさしおかるるものに候へば世の日用の品々米銭など仲立ちをもって有無互に交易の取次いたす業につき世話料として定めおかるる利益を取り、それを以て家内を育て候儀は商家の本意にて一生涯労せずして利を得候ものにつき別て正直に心を放さず奸術をつつしみ過分の利を貧らず実意をもって取引致すべく候」(『土佐藩の法制』)と云って商人に対して暴利不正の商行為を戒しめている。