宿毛市史【近代、現代編-農業-農地改革】

開拓事業

我が国は耕地が狭い上に人口が多いので、古来耕地の拡大をはかるために干拓したり山地をきり開いて畑にしたりしている。
宿毛でも明治以前から福良新田、志沢尾新田、小深浦新田などのように干拓された所や、大島、片島、大海などのように山の頂上まで開拓されている所が多い。明治になってからも林新田の開拓、池島の開拓などと事例が多くある。政府としても古くから開拓には力をいれ、明治32年には耕地整理法をつくって開拓の助成をしたり、大正8年にも開墾助成法を公布して、25万町歩を15年間で開墾することを計画したり、太平洋戦争中には緊急食糧増産対策の一環として「農地開発営団」を作ったりしてきた。しかし政策が微温的で大勢に影響するような事はなく終戦を迎えた。
終戦になると復員軍人や多数の海外引揚者、戦災による生産活動の停止とそれに伴う離職者、生産消費財の極度の枯渇などで、食糧増産と失業者の救済対策を緊急にやらねばならなくなってきた。そこで政府はこの対策として「緊急開拓事業実施要領」を決定した。この政策の内容は、我が国全体に於て開墾によって5か年間に、内地80万町歩、北海道70万町歩計150万町歩の耕地を作り、主要食糧を米に換算して約4千500万石の増産を目標とし、又干拓によって10万町歩を作り230万石、約120万町歩の土地改良で489万石の増産を目標として計画され、しかも開墾、干拓によって造成された耕地に5年間に100万戸の自作農をつくるという大きな計画である。
                                    (『高知県農地改革史』)
高知県では戦時中の「農地開発営団」は22年9月に閉鎖され、同年12月「緊急開拓実施要領」の実施に伴い、開拓事業は直接知事の行政下におかれ、最初は総務部経済総務課において所管されたが、間もなく開拓指導課が設置されて農地部に属し後に開拓課となった。本県においては昭和23年末までに、既に取得した用地も含めて民有地4,090町歩、国有地4,910町歩計9,000町歩を取得するよう割当面積が指示され、25年度までに3,540.5町、民有地4,367.2町計7,907.7町を取得した。
開拓地には小団地と集団地があるが、小団地は各農家が増反のため家の近くの山林を五畝から一反位増反する目的で買収したものであり、集団地は2、3男や海外引揚者などの入植の目的で大規模に買収したものであって、集団地には国、県が開拓の補助金を出すと同時に地区内外の道路建設、入植者住宅の建設などを行なった。又地区によっては電気の導入や、水道施設を作る等の助成を行なった。宿毛市の開拓についての業務は農地委員会(後農業委員会)が扱っていた。
宿毛市では開拓者は初めは人力で開拓していたが、開拓農業協同組合が設立されるとブルトーザーを導入して機械開墾などを行ったので、相当の成果をあげていたが、30年頃より価格の安い輸入食糧が入るようになり、農産物が豊富になると同時に、麦などを中心に畑作物の価格が低落し、採算がとれなくなったことと、日本の工業が発達し経済成長が著しく、それに伴って諸産業の賃銀もあがったことで立地条件の悪い開拓地は、経済的に不利となり、昭和35年頃より毎年離農者が相つぎ、当初100戸以上いた入植者も昭和51年現在では僅か10戸残っているに過ぎない。残された開墾地は大部分が元の山林となったが、開拓道路は順次市道に移管され、林道や農道として地区民に利用され喜ばれている。又小団地、集団地とも開拓不能地が約20%もあるが、これらは順次元の所有者へ戻している。
    宿毛市内集団開拓地
地 区 名 所 在 地 買収面積 入植面積 備   考
大 平 山 小筑紫町 都賀川 2.8ha 2戸   
矢 筈 山 同    上 3.4ha 2戸   
反 田 山 同    上 2.0ha 1戸  
登 谷 山 同    上 1.5ha 1戸  
主  従 同    上 4.0ha 2戸 道路  200メートル建設
都賀川第1 同    上 37.0ha 6戸 道路 3500メートル建設
都賀川第2 同    上 51.0ha 21戸 道路 1500メートル建設
栄  喜 小筑紫町 栄 喜 80.0ha 21戸 道路 3500メートル建設
小 三 原 小筑紫町 石 原 75.0ha 21戸 道路 2700メートル建設
石  原 同    上 12.0ha 4戸 道路 2000メートル建設
船 ノ 川 同    上 3.5ha 2戸  
鹿  崎 小筑紫町 田ノ浦 2.2ha 1戸  
大 和 山 沖の島町 母 島 21.6ha 8戸 道路 1100メートル建設
妹 背 山 同    上 80.0ha 21戸 道路 5700メートル建設
池 ノ 上 橋上町  楠 山 1.5ha 1戸  
楠  山 同    上 150.0ha 19戸 道路 8000メートル建設
木家ヶ谷 山奈町  山 田 2.0ha 1戸  
   529.5ha 134戸  
宿毛市内小団地開拓地
  宿 毛 小筑紫 橋 上 平 田 山 奈 沖の島  計 
買収面積  38ha  36ha  15ha  19ha   7ha  13ha  128ha