むかで言うたら誰でも好かんもんの一つにかぞえるがじゃあなかろうか。
草むらの中やら時にゃあ家の中まではいりこんで、なんかのひょうしにかちっとかみつく。その痛いことゆうたらかまれた者でないと判らん。負ける者はぼったりはれてくる。首筋なんかを這われるとなんともいえん気味悪いもんで、まあこんなことからむかでを好きじゃと言う人はそうそうおらんのが本当じゃろう。
こんなのはおおむかでちゅう種類の仲間があらかたらしい。お百姓さんの家で牛馬を飼いよった時代にゃあ、ときたま刈った草んなかい入っちょってかまれることもあった。
それ程太いもんでもないが、なかなかごつい歯をしちょる。サワガニの仔らでもかみくだいて喰うてしまう。
むかでをやっつけるときにゃあ、お大師さんのかたき言うてやっつける人がようおったが、むかでがお大師さんにどんげなことをしたんか、そいつあしょっと判らん。
さてそのむかでじゃが、卵でふえる。仔がかやるのに三週間位かかるらしいが、その間親むかでは大事そうに卵を腹の下に抱き込んで守りよる。敵がやって来てなんともならんいうときはその卵を喰うてしまうというこっちゃ。
居場所をかえるとき卵をかかえていくこたあ勿論じゃが、生まれたこんまい仔むかでも団子にまるめて抱いていく。
こんなこたあめったに見るこたあ出来んこっちゃが、山の人らがときたま見かけることで、木の枝なんかでいたずらすると団子をほどいて逃げようとする。そのままじいっとおいちょると、すぐまた集めてかかえ込む。そんなことを 三回四回くり返すと、とうとう親むかでが仔むかでを食うてしまう。なんともならん。
逃げられんと覚悟したら他のもんにやられるよりはと、親が始末をしてしまう。
一寸の虫にもなんとやら、おそらくこれも親むかでの愛情じゃあなかろうか。それとも持って生まれた本性じゃとかたずけるべきもんじゃろうか。
なんにしてもこんげなこたあめったに見ることの出来んこっちゃと、すうおじは山のくらしを話してくれた。