山間部の谷々を流れる小川の渕。そうした渕のなかには昔から蛇渕と呼ばれてきたものがあることは、ふるさと物語でもお話しましたが、この附近でくらしている蛇たちがそうした水の中での生活が出来るものでしょうか。 伝説的なことは別として、どうもそうしたことは不可能なのではないでしょうか。
それではなぜ蛇渕などと呼ばれるところが出来たのでしょうか。
皆さんの中にも川面や田んぼを上手に泳ぐ蛇の姿を見かけたことのある人はいるでしょう。
それから蛇の来たことを知って、溝の底にじいっとひそんで難をのがれようとする蛙を、水にもぐっておい出す蛇の姿を見た人もおられるかも知れません。
こうした様子を見てくると、泳ぎもなかなか達者だが水の中に潜ることも出来るということがはっきり判ります。全身潜ったままなかなか上手に泳ぎもします。
それではいったいどのくらい潜っていることが出来るのでしょうか。個体によってもちがうでしょうが、 ごく普通に見かける黒い蛇。どのくらい潜っておられると思いますか。
まず七分から八分は大丈夫です。
一度頭を出してすぐまた潜る、こんなことを二度三度とくり返すとその時間はだんだん短くなっていくのはしかたのないことでしょう。
それにしても人のすもぐりとくらべると、その時間の長さのなんと長いことでしょう。あの体のどこにいったいその秘密があるのでしょう。
そんなことでたまたま渕の附近を通りかかった人と蛇。少々大きな蛇ともなれば人の方もびっくりするが、蛇の方でも平気なはずもなかろうから、ずるずるっと渕の中にすべり込む。
こんな場面に出くわすと渕の中をのぞきこむ人もあるでしょう。
三分五分たっても出て来ない。こんな場合の三分五分はずいぶん長いと思うはずです。これ以上も出て来ないとなれば、さては川底の住家にもぐったと思いだすのではないでしょうか。
ひょっとしてそんなことから蛇渕と呼ばれる場所ができたのではないでしょうか。
そんなことも考えてみるのです。水中の穴に逃げ込んだ蛇がしばらくたっても出てこないので、そのまま帰ったこともありました。