宿毛市

堤燈奇計

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その1

戦乱にあけくれる世とはいえ、新城の森の梢はいっときの静けさをたたえていた。
しかし、その静けさの中にも敵の軍勢が一団、また一団、昨日はあそこ、今日はこことおしよせてくることが物見の知らせで城兵たちにも伝わってくる。


その2

そのうち城のふもとにも、敵兵の姿がすきをうかがうかのように見え始めた。
ときには城をあとに打って出て、散々敵をなやませては引き上げる。
やがて、そうしたことが毎日続くようになってきた。
傷つく見方も多かったが、堅固(けんこ)な山に守られて、頂上の城までは敵のおし登ってくることを許さなかった。


その3

暮色(ぼしょく)がふもとをつつみ始めた。
兵たちは残照(ざんしょう)のかすかにそめる海や、ちらほら見えそめた眼下の灯(あかり)を眺めながら、それぞれに今日の命をしみじみとかみしめるのだった。
風が静かに兵たちのそばを吹き抜けていく。粗末な夕餉(ゆうげ)もこの上ない馳走(ちそう)である。


その4

やがて、明日にそなえて体を横たえる城兵たちは、夜半(やはん)見張りの者の大声に眠りをさまされた。


その5

「敵だ~」
篠川(ささがわ)ぞいから十万駄馬(じゅうまんだば)に幾百千(いくひゃくせん)と並びうごく灯りがみえる。
松明(たいまつ)がおびただしい堤燈(ちょうちん)のあいだをかけまわる。


その6

日頃から知りぬけたふもとの駄馬の広さならあれだけの軍勢が集まることは充分できる。


その7

その灯がだんだんと山を登り始めた様子を見て、
『いよいよ敵は夜討ちとでたぞ。あれだけの人数にかかられては防ぎきるのはむつかしい。今のうちに城をはなれて、伊予の諸城(しょじょう)で落ち合うのが賢明』
と判断した大将は、一同に頂上ぞいの小道をいでん駄馬など無難な所を選んでそれぞれに落ちのびるよう、言いきかせて城に火をかけた。


その8

城を出てははげしい戦をくり返した城兵たちであったが、とうとう夜のしじまを黙々と去っていかなければならないことになってしまった。


その9

その灯は、二ヶ月あまりもこの新城のためになやまされた長宗我部(ちょうそかべ)の軍勢が、なんとかしてこの城を攻め落としたいと 知恵しぼった計略でした。


その10

実の所は、竹竿に何個も堤燈をぶらさげ、一人のものを数人に見せかけたものでした。
こんな奇計(きけい)にかかるほどの者たちでもなかっただろうに、長い戦のつかれのため夜の物見も充分にはたすことが出来なくなっていたのではなかろうか。


その11

しかし、夜明けとともに落ちる者と追う者とのあいだには、ふたたびあちらこちらの山中、谷間で昨日につづくはげしい戦がくりひろげられていった。
新城落城(しんしろらくじょう)にまつわる言い伝えと同様なことが、橋上色城落城にも伝えられている。

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