今の電報電話局のたっている所は妙栄寺というお寺のあった所です。立派な鐘つき堂や、ぎんなんの姿を記憶しておられる人もたくさんおいでのことと思います。
このお寺の裏手には北方様がおまつりしてありました。ふるいお墓の前の筒の中には、いつもしきびがさされていました。
夏になると、その筒の中の水にはぼうふらが泳いでいることもありました。
そんなふるい水を町の人達は、北方様のお水といって大切にしていました。
蛙をいじめるといびらが出るといいますが、本当かどうかはちょっとわかりません。
手の甲などがいぼいぼになって、あまりうれしい感じのするものではありません。
そんないびらをきれいに落としてくれる 妙薬(みょうやく)が北方様のお水だったのです。
いつの頃から誰からともなく、語り伝えられてきたことなのでしょう。このお水をつけると、不思議とよくおちたものでした。
いったいこの水の中にどんな力がひそんでいて、いびらを落としてくれたのでしょうか。
本当はしきびの毒が水の中にしみだして、それがききめを持っていたということになりそうです。
ですから、しきびをさした水であれば、どこのものでも効き目があるということになります。
北方様は山内一豊公(やまのうちかずとよこう)のお姉さんで、北方城の奥方様になっていましたが、殿様がなくなられてから宿毛に来られたのだそうです。
そんなお方ですから、昔の人達が特別のありがたみをつけて言い伝えたのかもしれません。 それとも他の所の水は全然つけてみようともしなかったので、効き目のあることをしらなかったのかも知れません。
ともかく、北方様のお水はいびら落としの妙薬として有り難い(ありがたい)存在だったのです。