昔のお百姓は田圃(たんぼ)の肥料にかしきというて、雑草やしばを刈って入れました。
牛や馬に食べさす草は朝早くから 刈りにいって、その日の分をずっさりとかついで帰ったあとで朝ごはんを食べるのが普通でした。
草刈り山はみんなとても大事に手入れしました
夏のあいだ草刈り山は、東の空がやっと明るくなる頃には、もう朝仕事の人々でにぎやかでした。冬のあいだにかれ草を焼きはらい、野ばらの根っこは掘りとってあるので、みずみずしい草が一杯です。
熊おじは布団の中で、明日の仕事のだんどりをあれこれ考えておりました。
「なんとしても朝飯までには馬の背一杯草を刈って来んならん。そのあと田圃のみまわりと、町までちょっと買物と、それでひいとい暮れるじゃろう」
いつの間にかぐっすり眠った熊おじは、一番どりで目をさまし、だんどり通りに馬をひいて早速に草刈り山に出かけました。 夜があけるまでにはどうでも荷をこしらえてしまいたい。なかなかによくばって、一生懸命かりました。
それにしても昨日あんなにといでおいた鎌の切れ味が、どうもほんくでないのです。 首をひねりながらも一生懸命刈りました。そのうちどうやら東の空がやっと白んで来はじめました。
やれやれと思うて何気なく鎌を光の方にすかしてみると、たまげたことに鎌ならぬひきうすの柄で刈っていたというのです。
「どうもおかしいと思うたが。これじゃあ切れ味が悪いはずよ」
と言いながら、それでも馬の背一杯草をつけて帰って来たといいます。
あとで熊おじはみんなにこう言いました。
「今朝の草刈りはことうたけん。鎌が切れんと思うたら切れんはずよ。誰かがおいちょったのか、真っ暗でまちごうてひきうすの柄を持っていっちょった。それでも刈るこたあ刈ってもんたが。」と
すましてこんな話をする人もとっぽさくの一人でしょう。
以前は草刈り山はあちこちにありました。共同で手入れしていい草がたくさん取れるようにしていた所が多いはずです。