宿毛市

猟師のおかね

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その1

土佐清水の人たちにはおこられるかも知れないが、こちらにも
「岩井のおかね」さんならぬ
「猟師のおかね」の話がある。
小深浦(こぶかうら)の北づけの新城山(しんしろやま)、長宗我部(ちょうそかべ)時代の城跡(じょうせき)が 落葉にうもれて残る山。
さて、その山のふもとにおかねと言う山猟師が住んでおった。
女ながらもなかなかのしたたか者で、毎日深い山の中を走りまわって猟をしていた。
いつごろからか、その新城の山のてっぺんでおかしなことが起こり始めた。


その2

ときには、振り袖を着た若衆姿、ときには座ってビーン、ビーンと糸車を回すばあさん姿で夜道を急ぐ人をたぶらかす。
その姿が不思議なことに、下の道からよく見える。
古狸(ふるだぬき)か化け猫か、それとも戦で死んだ者の亡霊か。
そんな噂が広がってきた。
おかねはなんとかその正体をあばいてやろうと思いつき、新城へと夜道を急いだ。今夜も糸車の音が聞こえてくる。


その3

ここぞと思う所へ向けて一発、また一発持っていた弾をみんな撃ちこんだが、見事失敗して引き上げた。
なかなか手ごわい相手じゃが、どうぞして正体だけでも見ぬいちゃろうとあれこれ考えているうちに、我が家の飼猫(かいねこ)が 囲炉裏(いろり)の端でうずくまっているのに気がついた。
まてよ、なんぼ飼猫でも猫は猫、油断せんにこしたことはない。一人うなずきながらおかねは新しい弾をいじりはじめた。
いつも通り囲炉裏の端で二発の弾を作ったが、そのあとすっぽりと布団をかずいて、その中でこっそり一発誰にも見られることなしに作りあげた。


その4

しばらくあいをおいて、今度こそと夜中の山へのぼって行った。
ぼうっとした光の中で糸車を回す婆さんの姿が見える。ねらいすまして撃ちかけたが駄目だ。
二発目をしかえて撃ちかける。さすが達者なおかねの腕でもなんともならん。
その時、突然ケラケラという笑い声と一緒に
「どんなもんじゃ。一発も当たらんぞうが。今晩もはよういんでまた出直して来い。」
と、いう声がとんできた。
おかねが三発目のかくし弾を込めようとしていると、
「そんなことしてだまそうたち、弾は二発しかないことは判っちょるぞ。」
と、いう声がまたとんできた。


その5

かくし弾をしこんだおかねは、その声を聞きながら心静かに引き金を引いた。
「ギャアッ」という一声を残して 小牛ほどもある猫が正体を見せてその場にたおれた。
おかねが布団の中で作ったかくし弾。そこまでは見ぬけなかった化け猫は、弾は二発と油断しておかねの腕でうちたおされた。
そこまでよんで相手をたおすおかねという女。なかなかたいした猟師じゃったとみえる。

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