母島(もしま)の男が京に上って暮らすうち、高貴な方の姫君(ひめぎみ)と深くいいかわす仲となりました。
その姫は輝く玉のように美しい方でしたので、名も玉姫(たまひめ)といわれていました。
男は国へ帰るようになりましたが、この愛人との別れがおしくて、伴って(ともなって)帰ることになりました。
しかし、男には郷里(きょうり)に妻がありました。
ひきょうな彼は、母島の近くになってはじめてその秘密をうちあけたのです。
そしてすぐに迎えに来るからといって、無惨(むざん)にも泣き悲しむ姫を母島の沖の無人島に残して、自分だけ帰ってしまいました。
男は姫をあざむくつもりはなかったのでしょう。
けれども、母島に帰ってみると妻や親戚のために、最初の計画はすっかりこわれてしまいました。彼はいたずらに心あせりつつ三日、四日と日はたちました。
ようやくのことで人々の反対をおしきって、彼が玉姫を迎えるべく、無人島にこぎよせたときは、すでにおそかったのです。
あわれ玉姫は荒磯(あらいそ)の岩の上で、一人さみしく死んでいたのです。その岩の上から、幾度と愛人の名をよんだことでしょう。 母島を指呼(しこ)の間にながめながら、せつない心を抱いて死んでいったのでしょう。
島の人々は姫をあわれに思い、姫の名をそのままにこの島を姫島というようになりました。